Holy Diver (DIO) 和訳と解釈

Holy Diverのころのロニー。
ロニーの曲はいつもそうなのですが、この曲も名声のわりに「何がテーマなのか」が明快でなく、難解さでも超一流・・・。
しかしそれなら逆に、いろいろ解釈してみてもさして的外れになる危険はないのではないか?と思い、本ブログでも非力を顧みずに解読をやってみることにいたしました。
※今回も長文です。聴きながらどうぞ。
↓
"Holy Diver"
Holy Diver
You've been down too long in the midnight sea
Oh what's becoming of me
Ride the tiger
You can see his stripes but you know he's clean
Oh don't you see what I mean
Gotta get away
Holy Diver
聖なる潜水夫よ
お前は真夜中の海に潜りすぎた
私はどうなるのだろう
虎に乗れ
縞があるが、やつの清さが分かるだろう
私の言うことが分からないかい
もう逃げろ、聖なる潜水夫よ
Shiny diamonds
Like the eyes of a cat in the black and blue
Something is coming for you
Look out
Race for the morning
You can hide in the sun 'till you see the light
Oh we will pray it's all right
Gotta get away, get away
煌めくダイヤ、黒と青をした猫の瞳のよう
何かがお前に近づいている
気をつけろ
朝を得る競争で光を得るまで
お前は太陽に隠れていていい
その無事を祈ろう
もう逃げろ、逃げるんだ
Between the velvet lies
There's a truth that's hard as steel
The vision never dies
Life's a never ending wheel
柔らかな嘘の中で
真実は鉄のように堅い
映像は不滅、生命は終わりなき環
Holy Diver
You're the star of the masquerade
No need to look so afraid
Jump, jump
Jump on the tiger
You can feel his heart but you know he's mean
Some light can never be seen, yeah
聖なる潜水夫よ
お前は仮面舞踏会の花形
そんなに恐れることはない
乗れ、虎の上に
心を感じてもやつは残忍だ
決して見えない光もある
Holy Diver
You've been down too long in the midnight sea
Oh what's becoming of me
No, no
Ride the tiger
You can see his stripes but you know he's clean
Oh don't you see what I mean
聖なる潜水夫よ
お前は真夜中の海に潜りすぎた
私はどうなるのだろう
いや 違う
虎に乗れ
縞が見えても奴の清さが分かるだろう
私の言うことが分からないかい
Gotta get away, get away
Gotta get away, get away
Holy diver, soul survivor
You' re the one whose clean
Holy Diver, Holy Diver
There a cat in the blue comin' after for you (※)
Holy Diver
Holy Diver, yeah
Alright, get away, get away, get away
Holy diver, holy diver, holy diver
さあ逃げろ 逃げるんだ
聖なる潜水夫 魂の生還者
お前こそ清らかな者
聖なる潜水夫
青い猫がお前を追いかける
聖なる潜水夫
そうだ 逃げるんだ
聖なる潜水夫よ
※ Never come to new, coming after you と記載しているサイトもありました。
とりあえず訳してみましたが、これまた何重にも意味がとれそうな詞です。
Holy Diverとは何のことなのか、欧米のサイトでも意見が交わされているほどで、はっきりした答えは出ていないようです。
私なりの解釈で当たってみました。
①
Holy Diver
You've been down too long in the midnight sea
Oh what's becoming of me
Ride the tiger
You can see his stripes but you know he's clean
Oh don't you see what I mean
Gotta get away
Holy Diver
聖なる潜水夫よ
お前は真夜中の海に潜りすぎた
私はどうなるのだろう
虎に乗れ
縞があるが、やつの清さが分かるだろう
私の言うことが分からないかい
もう逃げろ、聖なる潜水夫よ
------
まず、そもそも「聖なる潜水夫」とは何ぞや。
2つ考えられます。
まずは「聖職者」。Holyという形容詞からの、比較的ストレートな想像です。
もう1つは、物事の奥底にひそむ真実を見ようとする人。学者、哲学者、アーティストもこれに入るかもしれません。
たしか古代ギリシアでは哲学者を、表面的な事物の中にあるものを探る潜水夫になぞらえていたのではなかったかな・・・
で、わざわざ2つ挙げておいて何ですが、実はこの両者はさして離れていなかったりします。
なぜって、聖職者は神との対話と同時に、哲学その他の学問を担っている存在であったからです。中世ヨーロッパでは特に、修道院が学問を深化・発展させる重要な場となっていました。
また、神との対話は「人間としてどうあるべきか」の探求と不可分であり、その点では古代も中世も同じと言えるでしょう。
それが「真夜中の海に潜りすぎた」とは、探求するあまり闇の部分まで行ってしまった、見てはならないものを見てしまう領域まで進んでしまったということ。
それで「私はどうなるのだろう」と不安がっているのは、一般の人々ともいえるし、領域を侵されつつある神とも言えます。
「虎」はバッカスの凱旋車を引く動物であり、「虎に乗る」=虎を御するとは、歯止めのきかない人間の情熱をうまく制御することを意味しているのかもしれません。
※バッカス・・・ギリシア神話の酒の神で、その祭りは大変な狂乱状態になるのが特徴だった
それが「清らか」だというのは、動物には人間にない無垢があるということ。ただし、その無垢は人間にとっては「無知」と同義であり、制御しなければならない力だということです。人間は無垢を失うことで知恵を手に入れ、その知恵によって善を選び取る力を得た。そんな隠喩が「虎」にはありそうです。
-------
②
Shiny diamonds
Like the eyes of a cat in the black and blue
Something is coming for you
Look out
Race for the morning
You can hide in the sun 'till you see the light
Oh we will pray it's all right
Gotta get away, get away
煌めくダイヤ、黒と青をした猫の瞳のよう
何かがお前に近づいている
気をつけろ
朝を得る競争で光を得るまで
お前は太陽に隠れていていい
その無事を祈ろう
もう逃げろ、逃げるんだ
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「ダイヤモンド」は精神の宝でしょう。
この後のアルバム「Dream Evil」に収録された曲「All the Fools Sailed Away」にも、鉄と対比する形でダイヤモンドが出てきます。
「猫」はキリスト教において悪徳のシンボルですが、ここでは必ずしもそうではないようで。
まず、「the eyes of a cat in the black and blue」とはどういう意味なのか。
「black and blue」が猫か、猫の瞳か、どちらを形容しているのかという謎はありますが、どちらにしても「猫」の性質にかかわるのは間違いありません。
黒は言うまでもなく闇の象徴でネガティブな性質。しかし、青は図像学的には天の正義を表すため、この「猫」は善悪を超越した何か--真理や霊感--を表しているのかもしれません。
言葉が抽象的ですが、たとえば原子力エネルギーにしても、使い方の是非はさておき「存在するもの」として発見した学者がいるわけです。そういうひらめきを、真理を探究する「聖なる潜水夫」は見逃すことができない。
しかし、それは善悪を超越しているがゆえに危険な場合もある。それで「気をつけろ」「逃げろ」と忠告しているのでしょう。
次の聯はおそらく、精神の光と物理的な光の対比です。
「朝を得る競争で光を得るまで、お前は太陽に隠れていていい」・・・「潜水夫」が真実を見つけるまで、現実の世界に姿を現さなくていい。研究に没頭していていいということ。
------
③
Between the velvet lies
There's a truth that's hard as steel
The vision never dies
Life's a never ending wheel
柔らかな嘘の中で
真実は鉄のように堅い
映像は不滅、生命は終わりなき環
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真実は喜ばしいものではない、もしくは真実は必ずその姿を現す、という2つの意味が考えられます。
visionとは「潜水夫」が霊感によって得たひらめきでしょう。
また、「生命の輪」のモチーフはタロットや中世の写本によく出てくるモチーフです。Black Sabbath時代の曲「Heaven and Hell」でも似たような表現が出てきました。
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④
Holy Diver
You're the star of the masquerade
No need to look so afraid
Jump, jump
Jump on the tiger
You can feel his heart but you know he's mean
Some light can never be seen, yeah
聖なる潜水夫よ
お前は仮面舞踏会の花形
そんなに恐れることはない
乗れ、虎の上に
心を感じてもやつは残忍だ
決して見えない光もある
------
仮面は欺瞞の象徴なので、「仮面舞踏会」はこの世のこと と考えてほぼ間違いないでしょう。
孤独な探求を続ける「聖なる潜水夫」も、時にこの世でもてはやされます。学者がノーベル賞を取ると一躍有名人になったりしますね。
ここでまた「虎」が出てきました。
やはりここでも、際限のない情熱に制御をかけることを言っているようです。
1度目に言及されたときは「清らか」であった虎も、ここでは獣性がクローズアップされています。
-------
⑤
Holy Diver
You've been down too long in the midnight sea
Oh what's becoming of me
No, no
Ride the tiger
You can see his stripes but you know he's clean
Oh don't you see what I mean
聖なる潜水夫よ
お前は真夜中の海に潜りすぎた
私はどうなるのだろう
いや 違う
虎に乗れ
縞が見えても奴の清さが分かるだろう
私の言うことが分からないかい
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最初とほぼ同じフレーズですが、「no, no」に特別な意味があるとしたら2つ。
「私はどうなるのだろう」という不安を強調しているか、あるいは逆に、「潜水夫」のやることにむしろ賭けようとしているという意味に取れます。
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⑥
Gotta get away, get away
Gotta get away, get away
Holy diver, soul survivor
You' re the one whose clean
Holy Diver, Holy Diver
There a cat in the blue comin' after for you
Holy Diver
Holy Diver, yeah
Alright, get away, get away, get away
Holy diver, holy diver, holy diver
さあ逃げろ 逃げるんだ
聖なる潜水夫 魂の生還者
お前こそ清らかな者
聖なる潜水夫
青い猫がお前を追いかける
聖なる潜水夫
そうだ 逃げるんだ
------
ラスト近くの部分です。
「黒と青」だった猫が、「青」一色になっています。
最初に「猫」が出てきたとき、私は「黒と青」という色に注目して「善悪を超越した霊感や真理ではないか」と書きました。
また、「猫」という存在そのものがキリスト教圏ではネガティブな位置づけにあるとも。
その考え方で行くと、ここでもやはり「猫」は善ともなり、悪ともなりうる存在。ただし、「天の正義」を表す「青」一色になったために、やや善の方に上昇したと言えるかもしれません。
そして「潜水夫」が逃げなければならないのは、やはり歌の冒頭に出てきたように「真夜中の海に潜りすぎた」ため。
探求するあまり、知ってはならない領域まで行ってしまった。それで、より天の方に近づいた「猫」に追われる身となったのでしょう。
~~~~~~~
さて、みなさん。
Holy Diverの歌詞を細かく考察してきましたが、少しは謎が解けたでしょうか。
個人的な印象ですが、「聖なる潜水夫」とはいかなる存在であるかを考えるに、たとえば宗教改革者や天才的な科学者などを想定してみると、なんとなくこの比喩の意味が見えてくるのではないでしょうか。
真実を探求することは、人間をより高次元に引き上げる力ともなりうるけれど、同時に人間そのものへの危機をもたらす力ともなりうる。
15世紀末のフィレンツェで政治と宗教の腐敗を告発し、町中を禁欲と狂信の渦に巻き込んだサヴォナローラ。新しい信仰を打ち立てた一方で、その運動が宗教戦争の種になってしまったプロテスタンティズムと対抗宗教改革。人類の新たな「火」を見出しながら、それが核爆弾という最も不幸な形で現実のものとなったアインシュタイン博士。彼らはもしかしたら、人類史の中の「Holy Diver」たちなのかもしれません。
ここまで書いてきたことはあくまで管理人の考えたことなので、おそらくもっとほかにも意味が考えられることでしょう。
メタル界の「テンペスタ」ですね、こりゃ。
※テンペスタ・・・ヴェネツィア派の画家ジョルジョーネが描いたこの絵のこと。
何がテーマなのかいまだに分からないという、西洋美術史でも屈指の謎の絵。
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Re: タイトルなし
昔の歌詞カードって意外と?頼りにならなかったりするんですねえ。和訳する人が自分で聴き取って書いていたりしたみたいですし。
今は歌詞を紹介しているサイトがいくつもあるので、その点では助かります。余裕のある時はですが、いちおう複数のサイトを参照するようにしています。でも今回のようにサイトによって微妙に歌詞が違っていたりするので、その時は一番ふさわしいと思える歌詞を紹介する方針で行くかな~と考えています。
>ニキさんの和訳と解釈はとても参考になり楽しく読みました~。
そう言っていただけるととても嬉しいです!!ロニーの歌詞の内容を知りたくて、ついに独力で始めてしまったシリーズですので。今、和訳したい曲がいくつか候補に挙がっているので、楽しみに待っていてくださいね♪
The Devil You Knowは本当に迫力のあるアルバムですよね・・・。あれはチャートの面ではロニーの生涯で最も上位まで行ったアルバムで、全米8位を記録しました。生涯の傑作がそのまま遺作になったというわけで、なんとなく、ロニーという人のHR/HMへの情熱がそこに集約されているようにも感じます。
No title
Holy Diverはやはり難解というより、奥深い歌詞ですね。
かつては当時中学生だった私も、間違いだらけだったLP(!)の英詞を辞書片手に訳したものでした。
正直"Diver"をどうやってかっこよく訳すかと悩んでいたものでしたが、ロニーの世界観、海外との風習や思想・宗教観の違いをわかっていないと、そこにはたどり着けないですね、、、
ニキさんはアルバム"Holy Diver"のラストを飾るShame on the nightの最後の方で、ロニーのデスっぽい声が聞こえるのに気づかれましたでしょうか?
いくつかの歌詞サイトでは"Yficurc the diver"と記載されていますが、意味が出てこない、、、。"the diver"とは確実に言ってるので、謎を解く手がかりになるのかなと何年も悩んでいます。
Re: No title
このブログを始めた比較的最初のころに考察した曲でしたが、ご覧のとおりなんともまあ難しい内容でした。
正直、慶應の通信教育課程で哲学を選んでおいてこれほど助かったことはなかったと思います(笑)。専攻は美学美術史だったのですが、西洋におけるシンボリズムについて基本的な知識を得ることができたので。
Holy Diverをはじめのうちにとりあげようと決めたのは、ロニーの代表作であると同時に公式の歌詞も実はあてにならない、という話を聞いたためです。
今はネットを見れば正確と思える歌詞がいくつも出てきますから、自力で翻訳&解読もできるのではないかと思いまして。
Shame on the Nightでは確かに終わりの方で聴こえますね。私には笑い声のようにも聞こえたのですが、はっきりした意味は聞き取れませんでした。いずれこのブログで解読するときになったら考察してみます。何らかの形で答えが出るかもしれません。
No title
ロニーは初期Dioで一曲めにファストチューン、二曲目にタイトルチューンってパターンを踏んでるのですが、2ndのラストのEgyptでもShame on the Night同様ラストあたりで、かなり聞きづらい謎のメッセージを入れてるんです。
もしもロニーに会えたならこの辺の意図を訪ねたかったものです、、、
あとジャケットのデザインとタイトルは"Holy Diver"ですが、ジャケット裏には"Invisible"の冒頭の歌詞が残されているんですね。
当時、ロニーはアルバム・タイトルを"Holy Diver"にするか"Invisible"するか悩んだのかなぁと勝手に想像しています。
このあたりのニキさんのご考察をまたお聞かせください。
Re: No title
Egyptのラストメッセージもおそらくすでにネットに出ていると思いますが、曲を聴いたときにそのように聴こえなかったりしたらますます謎ですね。
あと、そう!ジャケット裏のInvisibleの歌詞については私も不思議でした。2019年6月にシンコーミュージックから出たロニー本でも、特にそのことは触れていないようです。ただInvisibleのテーマは10代の少年少女と思われ、その後のロニーが何度も曲にしていることから重要な曲だった可能性はあります。
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